狡猾な王子様
重い足取りで木漏れ日亭のドアの前に辿り着くと、一気に気が重くなった。


深呼吸をするつもりで吸ったはずの息はため息となり、俯いてしまったことで自然と視線が段ボール箱に落ちる。


綺麗に並んでいるトマトは今日もツヤのある物ばかりで、私の気持ちとは全く違う色をしている。


思わず大きなため息が零れそうになったけど、すぐにハッとして慌てて口を閉じ、今度はちゃんと深呼吸をした。


胸を張って、口角を上げる。


南ちゃんと鏡の前でそんな練習をした時のことを思い出し、なんとか笑顔を繕ってドアを開けた。


だけど……。


「こんにちは……」


その直後、視界に入ってきた光景に目を見開いた私は、明るく紡ぐはずだった挨拶の語尾を萎めてしまった。


なぜなら、カウンターテーブルに寄り掛かるようにして立っていた英二さんは、まるで項垂れるかのように俯いていたから。


さらには彼の足もとにガラスの破片が散らばっていることに気づき、店内には異様なほどに重苦しい雰囲気が漂っていた。

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