狡猾な王子様
片付けを終えた英二さんは、いつものように紅茶を淹れてくれた。


今日はレモンティーで、煮出す時にレモンの皮で香りづけされた紅茶にはその風味がしっかりとついている。


ひと口飲んでカップを置くと、彼がノートに目を落としていた。


「ノート、大丈夫ですか?」


「これくらいなら問題ないよ」


美麗な顔にはニッコリと笑みが浮かんでいるけど、いつもの柔らかい雰囲気はどこにもなくて、胸の奥が苦しくなる。


もともと、英二さんは優しい笑顔を見せながらもどこか壁を作っているようなところがあるけど、今の彼から感じるのはそういうものとはまた違う。


空元気のような、それですらないような。


いつの間にか再びノートに落とされていたその視線には、なにが映っているのだろう。


伏せられた瞳にはきっとレシピなんて見えていなくて、英二さんの頭と心を捕らえているのがもっと別のことだというのは私にだってわかる。


そのせいなのか、顔を上げない彼がなんだか泣き出してしまいそうに見えた。

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