狡猾な王子様
タイミングを逃してしまった私は、オロオロと突っ立ったままでいるわけにはいかないと思うのに、ふたりを横切って奥の部屋に行く勇気はない。


それでも、自分がこの場にいてはいけないことだけはわかっているから、ひとまず車に戻ろうと考えて踵を返した。


「出なくていいわよ、もう帰るから」


すると、それを遮るように佐武さんが意外にもそう口にし、思わず振り返った私の瞳には眉を寄せた彼女の顔が映った。


気まずさから言葉が出ない私から視線を逸らした佐武さんは、英二さんを見上げた。


彼は私のことを気にするように一瞥しながらも、自分に向けられた瞳に応えるように目を合わせた。


「未散には本当にひどいことをしたし、謝っても償えないと思ってる……」


「……そうね。でも、ルールを破ったのは私だもの。最初に決めたルールを守れなかったんだから、本当は英二を責める資格なんてないわ」


目の前で繰り広げられている会話の内容に戸惑う私を余所に、ふたりは私のことを気にしていないように見えた。

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