狡猾な王子様
初めて飲むブラックチェリーティーを美味しいと感じた私は、なんだかんだと言っても図太いのかもしれない。


とは言え、別れ話を思わせる修羅場を目にしたうえ、このあとには昨夜の約束が待ち受けている。


英二さんからどんな言葉を聞かされるとしても、笑って過ごせるような楽しい話ではないことだけは昨夜から明白だったけど……。


佐武さんとのやり取りを見た今はとにかく悪いことしか思い浮かばなくて、ここに来るまでよりも気分が沈み、笑顔を繕う頬が引き攣ってしまいそうだった。


「相変わらず、綺麗な物ばかりだね」


そんな私を余所に満足そうに頷いた彼が、厨房から出てきて右隣の椅子を引いた。


思わず左側に体を寄せてしまったことにはすぐに気づかれたようで、英二さんは困ったように微笑したあと、少しだけ右に椅子をずらしてから腰掛けた。


等間隔に並べられている椅子の中で、私と彼の間にだけ僅かに距離ができたことにどこかホッとしたのと同時に寂しさを感じ、その自分勝手な感情に呆れてしまった。

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