狡猾な王子様
時計をチラリと見ると、紅茶を出してもらってから三十分が経とうとしていた。


木漏れ日亭に着いてから一時間ほどになるから、さすがに家のことが少しだけ気がかりだったけど……。


「時間、大丈夫かな?」


私の様子を察してくれた英二さんがまだ話したいことがあるのはわかっていて、昨夜に決めた時間が過ぎても構わないと思えて小さく頷く。


私の答えが予想外だったのか、彼は僅かに瞳を見開いたあとで微笑むと、ひと呼吸置いてから息を吐いた。


その直後、緊張が走った。


空気が変わったことを感じ取り、次に来るのは私の告白のことだろうと予想できたから。


切り出し難そうな英二さんの横顔がそれを物語るようで、耐え切れずに視線を下げた。


だけど……。


「みちるとも話したんだ」


短い沈黙を経て耳に届いたのは、予想とは違う内容だった。


その名前が佐武さんのことを指していないのはすぐにわかって、なんとなく続きを聞くのが怖くなってしまう。


それでも、黙ったまま彼の言葉を待った。

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