狡猾な王子様
最初は聞くのがつらいと思っていた、英二さんの過去の恋愛のこと。


「みちるに会うのはつらかったけど、顔を見れて嬉しいと思ったことがあったのも事実だった」


だけど、自分の気持ちを素直に話す彼を前に、そんな感情は次第に薄らいでいく。


「会えば会うほど心を乱されてつらくなるだけなのに、いつの間にかみちるに会いたいと思うようにもなってた。兄貴の奥さんだってことも、近づけばもっと傷つけることも痛いほどわかってたから、一度だって優しくすることはできなかったけどね……」


英二さんは悲しげに後悔を滲ませ、そのまま静かに微笑した。


「そういうジレンマの中で出会ったのが、未散だった」


音だけで聞けば同じ名前だけど、佐武さんのことを話しているのだとすぐに気づいて、少しだけ身構えてしまう。


ふたりの関係を知っているから、耳を塞ぎたくならなかったと言えば嘘になる。


それでも、今はなにがあっても彼の話を最後まで聞かなければいけないような気がして、深呼吸をしながら背筋を伸ばした。

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