魅惑の果実
「勉強頑張ってるだろうからご褒美にって買って来たんだけど、おあずけみたいね」



紙袋を持ち上げて見せる美香ちゃん。


笑顔が怖い。



「それリリーのアイスじゃん!! 食べる〜!!」



リリーっていうお店のアイスは明日香の大好物。


冬の寒い日でも食べるくらい。



「あんなに時間があったのに、一問も解いてないじゃないの。 そんなんで食べられるわけないでしょ」

「お姉ちゃんの鬼ぃぃぃ〜!!」

「ん? 何? 今鬼って言った?」



さっ、兄弟喧嘩に巻き込まれる前に課題進めよぉっと。


明日香がワーギャー騒ぎ散らす中、私は黙々と手を動かした。


一人よりも人といる方が好きなせいか、この騒がしさは何だが落ち着く。


私もこんな喧嘩が出来るような兄弟が欲しかったな。


明日香と美香ちゃんの関係が羨ましい。


ほんの少し感じる寂しさを掻き消す様に、勉強の為に頭をフル回転させた。


今日の勉強を終えた私たちに、美香ちゃんは『しょうがないわね……』と言いながら、アイスをくれた。


美香ちゃんは私にとっても面倒見が良くて優しいお姉ちゃんだ。





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