掌編小説集

691.癒合剤の分泌‐プラットフォーム‐

彼へ恋人っぽいことをしたいと思ってバイト仲間に相談すれば
内緒でサプライズプレゼントをあげたらいいと提案してくれた
誰かにましてや恋人にプレゼントをあげるなんて初めてのことだから
選ぶのを手伝って欲しいと言えばトラディショナルだけれども
ステップアップにアミューズがバージョンアップする私を喜んでくれる

たくさん悩んでバイト仲間を付き合わせて買ったプレゼントを
彼に見付からないように隠して催すその時を待っていれば
得も言われぬ感情が増殖してバレないようにと気を引き締める

彼が帰って来て開口一番に今日何をしていたのか問われてしまう
まさか複合して態度に出てしまっていたのかと思ったけれども
サプライズだからと思い直してバイトをしていたと嘘を付いた
短時間のバイトをしてからバイト仲間と落ち合ったので完全な嘘でもない
それなのに彼は確信を持っているかのように壁際へと迫られて
取り調べのように追い詰められて普段の彼とは別人のようで
エキサイティングしていく彼に怖さを感じて振り払い出て来てしまった

必要が無いから退化したのか不必要を削ぎ落としたから進化したのか
そんな暗い箱庭の中で光を探して歩き続けることも諦めて
差し込む光が無いまま一生が終わると思っていたのに彼が現れてくれた
迷惑でも厄介でもないけれどあんな箱庭へは帰りたがっていないのに
忌み枝を白い目で見るような人のところへ探していたとしても帰せない
未来に前に進みたくても過去が足に絡まって重くてもつれて
結局現在に留まるしかないのに勇気ある後戻りは前進だという
正しいことをするなら本当のことを知るしかないから
正直になってもらわないと守れないとホーダーの銃口を
人質になった私から自分に向けて字面さえ限定させる
手柄だって損せぬ人に儲けなしと利点にはならない

闇の世界に居て散々迷惑かけて勝手だけれど無理矢理は嫌だと思った
出会ってから今まで私のことをアーケードのように守ってくれたけれど
アメニティに心地良く寝転んで永久指名を望んでしまったから
気宇壮大‐アナキズム‐な彼も呆れてしまったのだろう

同棲していたけれど帰りたくはなかったしこれ以上彼に甘えるのは
きょうだい児に半球睡眠させてエクイティを望むに等しい
彼が居ない仕事の時間を見計らって置いていた私物をすべて引き払う
すべてと言っても中型のキャリーケース一つ分で元々持ってきたものが多い
そして分化する前のアンフォラな固有‐ルーツ‐へと戻る
合鍵を持ってきてしまったのはプレゼントをどうするか決め兼ねているから
私からのプレゼントなんて迷惑なだけだと分かっている
けれど彼の為のものだからあげないまま捨てる気にはなれなかった

ホテルの清掃のバイトをしていたらホテルから出てきた彼と鉢合わせ
見知らぬ女と居るようで邪魔しては悪いと思い知らないフリをして
タイミング良くバイト仲間が私を呼ぶからその場を立ち去ることが出来た

彼の元へ行ってから接触の無かった闇の世界のメッセンジャー
情報‐ドキュメント‐をホワイトペーパーのようにしなければ
基本的に表の世界や裏の世界には非干渉で放置してくれる
たとえ知らずに開削して領域を侵したとしても悪質でなければ
駄弁るようなサテライトでクロージングを貫いてくれる
私に会いに来たということはそうとは出来ない事態らしい

どうやらある女が首を突っ込むどころかあまつさえ利用しようと
ゴミ屋敷はオールマイティなゴミ捨て場ではないのにも関わらず
簡単すぎるとつまらないし難しすぎるとやる気にならないと反復し
借金をチャラに出来なくても置きに行って完済してもお釣りがくる
まるで歩行者天国のように犇めく移民を格安で隊列を組ませ縦断
人の行く裏に道あり花の山のセルフスターターを気取り画策して
戦わざる者は勝たずと高飛び込みさせて無用で不要な苦難を生む

おっと合点承知の助とはいかないけれどもノータッチというわけにもいかない
しかもその女が彼と共にホテルで鉢合わせした彼の同僚だったら尚更
彼が担当している事件の裏で糸を引いている黒幕が同僚の女でもあるから
岩肌のアトラクションにぞっこんでドットのフレイルに気付かない
見慣れ過ぎていて感じ取れないということを指の関節を鳴らして
ガルウィングのスライス並ではあるものの警告する為に
カーボンニュートラルのミストを買って出て事件解決のお手伝い

彼は私が介入していたことに驚いていたけれど事件は無事に解決して
同僚の女にも卵は一つのカゴに盛るなということは伝わっただろうから
プライスレスなファンファーレの区切りもつけないといけないだろう
日の目を見たプレゼントといらなかったら捨ててという置き手紙を残して
お揃いのチャームごと合鍵を返して再びスリップストリームでも始めようか

キャリーケースを引きながら今晩の宿を探していると
人気のない裏路地にも関わらずヒールの甲高い足音が足早に
振り返ると同時に勢い良くフェンスに押し付けられ
あんたのせいでと逆ギレした香油香る同僚の女に刺されたようで
どうやらカンペのようにナイスシュートとはならなかったらしい
指紋の付いた凶器も放り投げてそのままに逃げてしまったから
闇の世界のメッセンジャーに連絡をして通話記録などからは辿れないように
デバイスのコールドウォレットをパスコードでデイトレードする

病院で意識を取り戻せば知り合いの裏の人間が通りかかって
意識を失って血塗れの私を見付けて救急車を呼んでくれたらしい
彼にも連絡したようで病室に居るけれど経緯を聞いている間も
気まずそうに視線をあっちこっちに向けるだけで終始無言の状態
おやおや随分と賑やかでと闇の世界のメッセンジャーが現れる
災難でしたねとお茶目に感情をシャッフルして喧嘩を売る話し方
知り合いの裏の人間よりも先に彼が飛び出しそうだったから
手で制しながら後始末に手を貸さなくてもいいのかと聞けば
後処理と後片付けはこちらでするのでゆっくりとお休みください
知り合いの裏の人間と彼の分のケーキをお見舞いとして置いて帰って行った

あの話しぶりなら同僚の女は消されることが決定したようだ
命だけではなく世の中からその存在‐バーコード‐ごと消される
バリアフリーの導火線を持ち合わせている闇の世界はそれだけ恐ろしい
見向きもしないなら見向きもされないなら何をしたって構わないだろう
などと考えてはいけないそっくりそのまま返されるどころではなく
外戚の機構‐パビリオン‐なんかよりもドキュメンタリーはノーミス
ケーキの数を見てもどこから情報を得ているか分からないのにノミネート

お礼とケーキを差し上げて知り合いの裏の人間は帰り彼にも帰ることを促す
帰るどころか置いてきたプレゼントを差し出されてやはりと
わざわざ返しに持ってきてくれたのかと思って受け取り
そのままゴミ箱に捨てれば彼は慌てて取り出して謝られる

プレゼントであるネクタイを嬉しそうに楽しそうに選んで
見知らぬ男もといバイト仲間と笑っているところを見てしまい
誰なのかと聞くつもりで問いただせば嘘を付かれて
答えになっていなくて否定もしてくれなくて
嘘が分かるということは本当が分かるということで
火花を散らす嫉妬で迫って滅茶苦茶にしてしまいたくて
そんな感情がリバイバルしながら焙煎‐キャラメリゼ‐

同僚の女にホテルに誘われてよさないかとも思ったけれど
心細いならと絶対に大丈夫だからと寄り添ってくれて
無責任でも一番欲しい言葉をくれるから思い余ってしまって
あの場面がちらついて離れれば楽になれると思ったけれども
自身の息子は役立たずで所謂朝チュンにはならなくて
もっと好きになるだけでそれを自覚するだけだった

事件が解決して家に帰れば机に置かれたプレゼントと手紙
理由が分かって目から鱗が落ちながら誤解が解ければ
周りを見渡す余裕が出たのかキャリーケースごと私の私物が無くなっていることに気付いて
急いで探しに出たのはいいけれど行くところが分からなくて
あちらこちら走り回っていれば知り合いの裏の人間から連絡が来て
病院に直行して経緯を説明されて現在に至るようだ

警察や探偵でもないから犯された罪を暴く必要はない
ただこちらのちょっとしたお願いをきいてくれるだけでいい
なんてリテラシーを利用するだけ利用する語呂合わせ
都合の良い玩具にしたいから強引な引き止めもする
転換性障害へ心を込めて嘘を付かなければならなくなるのは
思い通りになってはくれない自分の心へ思い通りにする為
ガラスのハートが粉々に砕け散って破片が更に傷付けても

命じられれば何でもするからと言って続けたいと打診したのに
拒否出来ない立場だからこそ自由にしたくて解雇したのはそっちと
用心深い子が懐くなら見ず知らずでも信用にたる人物で
支えていると思っていたら背中を押されていたようだ

俺の傍に居てくれてありがとう
貴方が傍に居させてくれたから

私はここに居てもいい?
俺がどこにも行かせない
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