掌編小説集

713.雪渓は秒速に夕景へ

自分の失態せいで、いや別にあれは失態でも何でもなくて、仕方がないことだったというか、予測不可能な想定外だっただけ。

でも私に怪我をさせてしまったと気に病んでいるようで、あれから毎日毎日、何時になっても必ず一回はお見舞いに来て、面会時間が過ぎても差し入れを置いていく。

通常業務の合間を縫っていることは確実で睡眠時間も削っているだろうから、怪我も面会も差し入れも気にしないで大丈夫だからと言っても、自分がしたいだけだから心配しなくても大丈夫だと返されてしまった。

疲れが滲み出て隈が出来ている顔にどうしたものかと、お見舞いに来た同僚に相談すればこっちから言ってみると言ってくれた。

それから数日経っても来ることも差し入れも無くなったから、その効果と同僚に感謝していたら、病室のドアの前で立ち尽くすような引き返すか入るか迷っているような姿。

私が病室から出ていなかったらいつまででもウロウロして不審者になりそうで、声を掛ければ見付かったとばかりのばつの悪そうな表情をするものだから、失笑する前に病室へと招き入れる。

同僚に注意されて尚、迷惑と思いながらも迷いながら来てしまったけれど、病室のドアを前にして後込みしてしまったと言う割に、手に持っている差し入れの袋の中身はいつもと変わらなくて、別に迷惑ではないけれども、その隈が心配になるからと頬に触れた。
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