上司のヒミツと私のウソ
 私と矢神の間には距離があった。付き合っていた頃は、その距離の遠さに気づいていなかった。でも今は、はっきりわかる。一度もお互いの肌に触れようとしなかったのは──相手が手の届く場所にいなかったからだ。


 そんなことにも気づかないで、ずっと恋人のつもりで浮かれていた自分が馬鹿みたいにおもえた。





 例年より早く花開いた桜は、四月に入るとあっという間に散り始めた。ミサコちゃんから結婚が決まったという連絡をもらい、会社帰りに二人でお祝いを兼ねた食事をすることになった。その日の朝。

 出社するなり、私は矢神に呼びつけられた。なぜか二人でミーティングルームに籠もる。


「この件ですが」


 テーブルにつくなり矢神が切り出し、私はにわかに緊張した。矢神の手に、見覚えのある企画書を見たからだ。


「僕が任されることになりました」


 涼しい顔をして、矢神はさらりといった。私は冷静にその言葉を受け止めようとしたけれど、到底無理だった。あふれる期待に全身が震える。矢神は続けた。
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