上司のヒミツと私のウソ
「いくつか気になる点はありますが、徐々に詰めていけばいいでしょう。安田さんにもそのうち手伝ってもらうことになるとおもいますが、当面は二人で進めます。まずは来週月曜の三時、開発部門の担当者と打ち合わせを行いますので、ミーティングルームの予約をお願いします」

 一気に説明され、茫然としていると、「いいですか?」と矢神に念を押された。


「は、はい」

「では、よろしくお願いします」


 事務的な口調でいうと、矢神はすばやく席を立ち、さっさとミーティングルームを出ていく。


 私は席にもどり、安田に頼まれていた伝票のチェックを始めた。平静を装ってはみたけれど、内心はうれしさのあまりじっとしていられないほどだった。意識が集中せず、そわそわして何度も計算を間違えてしまい、伝票チェックはいつもの倍ほど時間がかかってしまった。


 夜、仕事帰りにミサコちゃんと待ち合わせをして、二人でよく行く小さなイタリア料理の店に入った。私はオレンジジュースで、ミサコちゃんは赤ワインで、ミサコちゃんの結婚を祝う乾杯をした。

「こんなに簡単に決まるとおもわなかったなあ」と、ミサコちゃんは他人事のようにいった。相手のひとはお役所に勤める公務員で、雰囲気がおだやかでやさしいひと、なんだそうだ。
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