上司のヒミツと私のウソ
「今のは答えになってないだろ」

 矢神は声のトーンを落とそうともしない。私はおもわず周りを確認してしまう。


「なに考えてるんですか」

 こちらのほうが焦って、小声になっている。


「俺は本心かと聞いている」

「そうです」

「嘘つけ」


 私は絶句して、苛立ちを隠さない矢神の気色ばんだ顔を見た。


 なにか当たり障りのないことをいって、この場を逃れようとおもったけれど、言葉は出てこなかった。

 声にすれば、全部ばれてしまいそうで。いまなにかいったら、気持ちの中にあるものが全部、出てきてしまうのではないかとおもった。


「すみません。今日は帰らせてください」

 喉の奥から絞り出したような、情けない声だった。


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