上司のヒミツと私のウソ
「だから……ああいうことを面と向かっていわれると、俺のせいかとおもって焦る」


 いいにくそうに、矢神がうつむきながらそう打ち明けたとき、私ははじめて矢神の素顔に触れた気がした。


 ひょっとしてこのひとは、ものすごく無器用なんじゃないだろうか。

 ウソ百パーセントの自分と、ホンネ百パーセントの自分しか、持ち合わせていないんじゃないだろうか。ちょっとウソをついてごまかすとか、ちらっと本音をのぞかせてみるとかいう芸当が、できない性格なのかもしれない。


 だから、あそこまで完璧な表と裏の使い分けが必要なんだ。

 それはたぶん、私自身にもいえること。


「自信がなかったんです、私」


 本当はぜんぶ矢神のせいだけど、それはいわなくてもいいことだ。私だけがわかっていればいい。

「本間課長にダメ出しされて、落ち込んでしまって。でも、諦めたくないです。ずっと企画の仕事がやりたかったし……やっと、それがかなうところまできたんだし」

 これは、本音。
< 152 / 663 >

この作品をシェア

pagetop