上司のヒミツと私のウソ
 もうひとりの西森華は、遠く離れたところで狼狽える私を傍観し「ばかみたい」と鼻で笑っているのだ。煙草の煙を勢いよく吐き出しながら。

 しょうがないでしょ、と開き直り、もうひとりの私がいいわけする。

 プロポーズなんて、生まれてはじめてされたんだから。


「西森さん」

「はいっ、はいっ」


 反射的に返事をして顔を上げると、佐藤部長が目をまるくして「返事は一度でいいよ」といった。


「二時に矢神くんと安田さんがくるから、契約更新の手続きを頼むよ。書類はこれ」

「え?」

 封筒を手渡される。

「僕はこれから外出するから。あとはよろしく」


 佐藤部長は、コートと鞄を手にして早くも席を離れようとしている。私は慌てふためいた。

「えっ、あの」

 すがりつきたい気持ちとは逆に、声は弱気だ。佐藤部長は気づかず部屋を出て行ってしまう。
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