上司のヒミツと私のウソ
 純粋な気品が漂うような、ごく自然にプライドの高さを表すような、人を誘い込むような深い微笑──。


 違う。

 矢神の笑顔じゃない。


 その瞬間、ぞくっと背中に悪寒が走った。


「……誰?」


 彼は微笑を深め、体勢をずらして私と向き合った。


「お客様に対して、そういう問い方は失礼ではないかな。企画部宣伝企画課の西森華さん」

 私はとっさに身を引いて、ソファから離れた。彼の目が私の社員証をとらえていることに気づく。


「あなたの上司を呼んでくれませんか」


 けれど、彼の視線が私の背後に移り、そこに目的の人物の姿を認めた瞬間、「その必要はなさそうです」といい換える。

 彼はさらりとした所作で立ち上がると、同時に微笑の消えた冷たい顔でビルの入り口を見た。


 そこに矢神がいた。
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