上司のヒミツと私のウソ
 とっくに気づいていたらしく、矢神はまっすぐにこちらへ向かって歩いてきた。

 その顔は、緊張したようにこわばっている。


 二人は数メートルの距離を置いて向かい合い、しばらく黙ってお互いの顔を見ていた。

 同じ顔、だった。


「どうしてここが」


 途中までいいかけて、矢神はなにかに気づいたようだった。

 口をつぐんだ矢神に代わり、もうひとりの矢神が軽く鼻で笑って答えた。


「彩夏が婚約者の俺に黙っているとおもうか? 相変わらず詰めが甘いな、おまえは」

「……」


「せっかく十年ぶりに日本にもどってきたんだ。弟に会いに来るのは当然だろ? ああ、そうか。安心しろ。まだむこうには知らせてないから。といっても、そろそろむこうも自力で見つけ出すころじゃないか? 時間の問題だな」


 二人の矢神を前にして、夢でも見ているのではないかと茫然としている私に、矢神がふいにほほえみかけた。
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