上司のヒミツと私のウソ
 安田がいなくなるとすぐに、私は屋上に向かった。

 なんとなく、矢神がいるような気がして、いつも使っている北側の非常扉ではなく、南側の非常扉から屋上に出た。


 おもったとおり、矢神はそこにいた。


 屋上を取り囲む金網に背中をあずけて、どこか空ろなようすで煙草を吸っていた。

 その姿を見たとき、私は一瞬ぎくりとした。


 “裏”のときの矢神は、いつもこんなに淋しそうに煙草を吸っていたんだろうか。

 ただ私が気づいていなかっただけ?


 ためらいつつ、私は矢神に近づいていき、「お疲れさまです」とできるだけ自然を装っていった。


 矢神の反応はなかった。

 まるで、私のことなど目に入っていないかのように見える。
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