上司のヒミツと私のウソ
「昼休みに来てた人、お兄さんですか」


 おもいきって、私は聞いてみた。矢神はふうっと煙草の煙を吐き出し、「見りゃわかるだろ。あの顔が他人に見えるか」と、どすの利いた低い声で煩わしそうにいう。

 それを聞いて私はすこし拍子抜けした。いつもどおりではないか。


 私は矢神と並んで金網に背をもたせかけ、細く長く夕暮れの空にのぼっていく煙を見つめた。


「そっくりですね」

「双子だからな。子供のころは悲惨だったぞ」

「間違えられたりとか?」

「それは日常茶飯事だった。親もよく間違えてたし」


 矢神が自分から子供のころのことを話すのは珍しい。

 そういえば付き合っていたころも、昔のことに話題が及ぶと矢神は急に口が重くなり、さりげなく話題を変えていたような気がする。
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