上司のヒミツと私のウソ
 私は矢神の子供のころや、学生時代のことをほとんど知らない。知っているのは履歴書に書いてあることと、「あすなろ」で聞いた高校時代のことくらい。


「大変そう、ですね」

「本当に大変だったのは、俺たちの中身が似ても似つかなかったことだな。ある意味、そっちのほうが悲惨だった」

 前言撤回。やっぱりいつもの矢神じゃない。饒舌すぎる。

「中身って?」

「頭の出来」

 私はおもわず笑い声を漏らした。


「なにいってるんですか。医学部卒のひとが」


 矢神は急に黙り込んだ。なにか悪いことをいっただろうか?

 そういえば、矢神はたしか医師免許を持っているはずだった。

 三年かかって大検を取得して、七年かけて大学を卒業した、と以前話していたけれど、そこまで苦労して医師免許を取っておいて、なぜ今ここに──飲料メーカーの企画部にいるんだろう?
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