上司のヒミツと私のウソ
「あんた、『一期一会』の──三年前に放送された番組がきっかけで、この会社に入ったっていってたけど」

 いきなり話題が飛んだので、私はすぐに頭を切り換えることができなかった。矢神は私の無反応を気にすることなく、煙草を吸いながら話を続けた。


「俺もあのとき、この仕事を続けようとおもったんだ」


「……え」


「注目を浴びたからとか、そういうんじゃないぞ。『一期一会』は今でこそ緑茶の定番ブランドになったけど、プロジェクトがスタートしたときは前途多難で、いろいろ大変だったし苦労も多かった。でも製品ができあがったとき──それが多くの人に届いて、喜んでもらえたとき、やっぱり間違ってなかったとおもった」


 さっきから、矢神はずっと私を見ない。


「だから……あんたが企画をやりたくて俺に近づいた気持ちも、少しはわかる気がする」


 矢神がなぜ急にそんな話をしだすのかわからなかった。黄昏のように薄暗い不安が、胸を浸していく。
< 190 / 663 >

この作品をシェア

pagetop