上司のヒミツと私のウソ
「別に責めてるわけじゃない。それにあのときのことは、西森はなにも悪くなかった。むしろもっと早く別れるべきだったとおもう。そうすれば……」

 矢神は急に言葉を切った。

 どうしてもその先が聞きたいとおもい、私はねばり強く待ってみたけれど、いくら待っても矢神は続きをしゃべろうとはしなかった。

 煙草を吸い、暮れかけた空に煙を吐き出す動作を、ゆっくりと二度繰り返した。


「要するに、こうなってよかったってことだ」


 説明のつかない感情が覆い被さってきて、私は足もとが崩れていくのを感じた。


 矢神がそうおもっていることは、とうにわかっていたはずだ。

 なのに、あらためて言葉にして伝えられると、冷たい氷の塊を飲み込んだように胸が苦しい。


 なぜ、今になって、わざわざそんなことを口にしたりするのだろう。

 まるで、少しでも期待するなと──二度と恋人になることはないと、念を押されているような気がした。
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