上司のヒミツと私のウソ
 私たちは、花壇を見下ろす二階のテラス席に案内された。

 ほどよく風が通って気持ちがいい。

 彼は案内したウェイターとは顔なじみらしく、にこやかに世間話をしている。


 店の中にはちらほらと客が見えたけれど、ランチの時間帯にはまだ早いせいか、混んではいなかった。

 オーダーを取りにきたウエイターに日替わりランチを二人分頼むと、私は居心地の悪さに身じろぎした。


 矢神と付き合っていたころのことを、嫌でも思い出してしまう。

 テーブルを挟んで向かい合う男は、“表”のときの矢神と瓜二つだった。


「さあ、なんでも聞いてくれてかまいませんよ。あなたが知りたいことはなんです?」


 彼は興味本位ともおもえる熱心な視線を向けてくる。


「私はべつに、なにも……」

「聞きたいことがあるから、僕についてきたんじゃないんですか?」


 そのとおりだった。

 けれども、なにがと問われると答えられない。本心は、矢神に関することはすべて知りたいとおもっているから。
< 200 / 663 >

この作品をシェア

pagetop