上司のヒミツと私のウソ
 それに、このひとの狙いがわからない。

 私と矢神が別れたことを知っているなら、今さら私になんの用があるというのだろう。


「あなたは勘違いされているかもしれませんが」


 急に彼が話し出した。

「僕たちはとても仲の良い兄弟だったんですよ」

 直視する私を気にも留めず、にこにこ笑いながら楽しそうにいう。


「あの事故が起きるまではね」


 彼は左手の肘をテーブルにつき、その掌に顎を乗せて私を見た。


「僕たちの両親は、地方で病院を営んでいましてね。僕の夢は、いずれ医者になって病院で働くことでした。子供のころから人の何倍も勉強をしましたよ。弟が一日中友だちと遊んでいるのを、見てみないふりをしてね。おかげでそこそこ有名な進学校に入学できて、父も母もとても喜んでくれました」


 彼はふんわりと顔をほころばせ、懐かしむように目を細めた。
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