上司のヒミツと私のウソ
「だけど、僕が着実に夢を叶えていくのと反比例するように、弟の成績はどんどん落ちて素行も荒れていったんです。見かねた両親は弟を親戚の家に預け、そこから地元の公立高校に通わせました。しかし弟はろくに登校もせず毎日喧嘩ばかりして、とうとう傷害事件を起こして高校を退学になってしまった」


 彼の視線が静かに庭に移る。

 庭の花壇では、五月の可憐な花が色鮮やかに咲き乱れ、青々とした木々の葉が風に波打っている。

 その風がひとすじ、テラスを渡って彼の髪をかろやかにすくっていった。


 高校二年のとき、と彼が無表情につぶやいた。


「僕は帰宅途中に交通事故に巻き込まれ、重症を負いました。この右腕は、そのときに切断したんです」

 必死に感情を押し殺した低い声が、淡々と告げた。


「医者になる夢は絶たれましたけれど、高校だけはどうしても卒業したくてね。過酷なリハビリにも耐え抜き、必死のおもいで復学しました。そうやって、僕が血の滲むおもいをして高校を卒業した年、弟は僕が受けるはずだった国立大の医学部に入学した」
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