上司のヒミツと私のウソ
 戸惑う私の前で、彼は左手だけを使い、器用にナイフとフォークを操った。

 私の心臓はまだ激しい動悸を打っていたけれども、彼にならって食事を進めた。ナイフとフォークの動きはひどくぎこちなかった。


「僕は日本の大学を出たあと、経営学と病院管理学を学ぶためにアメリカに渡りました。アメリカの病院で病院長研修も受けました。弟が逃げ出したからには、なんとしても僕が病院を継がなくてはなりません」

 医者でなくとも経営には関われますから、と彼はいった。


「だけど親族の中には、僕が障害を持っていることに嫌悪感を示し、形だけでも弟に病院を継がせるべきだといい張る者がいましてね。弟を見つけ出し、副医院長の娘と見合いをさせるつもりだったようです。弟は、そのことを事前に彩夏から聞かされて、悪くない話だとおもったんでしょうね」


 もうやめて、と私は心の中で叫んだ。
< 204 / 663 >

この作品をシェア

pagetop