上司のヒミツと私のウソ
「いやー、たいしたことやないんやけどね」

「なんですか? 教えてください」

「本当にたいしたことやないから」

「じゃあ、教えてくれてもいいんじゃないですか」

「矢神が話してへんのに、俺から話すのはどうかとおもうけどなあ」

 本間課長はそういいながらも、隠し通すことをあきらめたようだ。


「競合他社の一社──近江飲料が、九月の新製品でアーモンドキャラメルティーを発売するらしい。そのCMに、相模詩乃が起用されるといううわさや」

「そんな……」


 キャラメルミルクティーのCMに出演させるタレントは、モデルの相模詩乃と決めていた。この企画に合うのは彼女しかいない。

「まだそうと決まったわけやない。あんたんとこの課長が、今それを確かめに行ってる」


 そんなことが起きているなんて、知らなかった。

 矢神はひとこともいってくれなかった。

 私にはなにも知らせずに、勝手にひとりで大阪へ行って。


「心配せんでもええって。こういうことはよくあるんや。なんとかなる」

 本間課長はあっけらかんといい、私の肩をぽんと叩いて非常階段を降りていった。
< 224 / 663 >

この作品をシェア

pagetop