上司のヒミツと私のウソ
「さっきから無遠慮に人の顔をじろじろ見て」

「見てない。自意識過剰だ」

「あーそうですか」


 機嫌を損ねたように、西森はぷいっとむこうをむいてしまった。

 後ろで束ねた髪のおくれ毛が、汗ばんだ細いうなじにはりついているのが見える。

──黙ってりゃ、かわいいのに。

 つくづくそうおもう。

 もちろん、口に出していったりはしない。かわいいだとかきれいだとか、普通の女が喜びそうなことをいっても、西森には通用しないのだ。たぶん。


 フレーバーティーの開発中止が正式に決定してから、二か月が過ぎた。


 プロジェクトチームは解散、西森は現在ほかのメンバーが抱えている企画を手伝っている。彼女が出した企画書は、事実上棚上げとなったわけだ。

 西森としては今回の決定を受け入れがたい部分もあるだろうし、初めての企画で力も入っていたはずだから、相当気落ちするに違いないと心配したのだが、本人は意外とけろりとしていた。
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