上司のヒミツと私のウソ
「おまえ、相当酔ってるな」

「酔ってない!」


 やさしい花の香りがしたかとおもうと、彩夏が子供のように抱きついていた。

 突然胸の中に飛びこんできたやわらかなぬくもりに躊躇して、俺の両手が宙をさまよう。


「どうして話してくれなかったの。勝手にひとりでいなくなって、七年も連絡よこさないで。ものすごく心配したんだから」


 抱きついたまま、彩夏がささやく。泣いているのかとおもうほど、低くくぐもった声だった。

 いつもなら冷たい言葉を浴びせて突っぱねるのに、腕の中のちいさな体のぬくもりが脳の神経を麻痺させる。

 飲めない酒を飲んで酔っぱらい、だだをこねる彩夏が無性に愛おしくなった。

 両手を彩夏の背中にまわし、子供をあやすようにそっと撫でる。


「だから、連絡しただろ。彩夏がアメリカに発つ前に」

「でも、居場所は教えてくれなかった」


 彩夏の傍には、いつも隼人がいる。それがわかっていたから、彩夏にはいえなかったのだ。
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