上司のヒミツと私のウソ
「彩夏はどこにいるんだ」

「知らない」


 だが、俺は隼人のおもい違いを訂正しない。

 彩夏に手を貸すこともしない。

 ふたりがすれ違うのを、なにも知らない顔をして見ていたのだ。ずっと。


「彩夏とはしばらく会っていない。あんたのマンションを訪ねたときから、連絡もとってない」

「……ほんとうか?」


 初めて、隼人の声に不安が混じっていることに気づいた。俺は煙草を灰皿に押しつけ、立ち上がった。


「俺には関係ない。仕事中に呼び出すのはこれきりにしてくれ」

 コーヒーショップを出ると、さっきまで晴れていた空は薄曇りに変わっていた。




 彩夏のことが気になった。

 今日は早めに仕事を切り上げ、帰りに「あすなろ」によってみようとおもった。
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