上司のヒミツと私のウソ
 途中のコンビニで苺のショートケーキをひとつ買い、アパートに持ち帰ってひとりで食べた。気づくと三十歳の誕生日が終わっていた。


 子供の頃からずっとひとりだった。

 だから、いまさらひとりになっても淋しくはない。もとの自分にもどるだけだ。


 どっちの自分に?


 一日に二十本以上も煙草を吸い、しょっちゅう悪態をつき、休日は家でごろごろ寝てばかり。家事は必要最小限のことしかしない。人付き合いも苦手だから友人はほとんどいない。

 だけど、このアパートから一歩外に出れば、私は違う人間になる。会社の人や他人に見せる自分の顔は別人だ。

 そんなことはわかってる。今までずっとそうして生きてきたのだから。


 今となっては、もうどっちが本物の自分なのかわからなくなっていた。むしろ、こうして別々に生きる自分こそ、本当の自分なのかもしれないとおもう。


 彼に隠し通すことができなかったのは、私のミスだ。

 たとえ彼を裏切ることになっても──ひどい嘘をついてでも、隠しきるべきだった。


 携帯電話の着信履歴は彼の名前ばかりが並んでいる。

 メモリから番号を消そうとしたけれど、ボタンの上の指はいつまでも動かなかった。

 傷ついた胸の壁に、まだ未練が残っていた。
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