上司のヒミツと私のウソ
 私は間違えられただけだったのだ。なのにひとりで勘違いして。

 中学生じゃあるまいし、ちょっと顔をさわられたくらいで、三十にもなった女がおろおろするなんて。

 あまりにも情けなくて笑いそうになる。


 だけど。

 あんな愛おしそうな目で見つめられたら、誰だって勘違いしてしまう。


 無意識に左の頬をさわろうとして、やめた。

 気持ちを切り替えるためにさっきよりも大きく深呼吸をして、私は立ち上がった。





 昼休みになっても、矢神は六階の執務室にもどってこなかった。

「ここ、座ってもいいですか?」

 食堂でランチをとっていた私と安田のテーブルに声をかけてきたのは、佐野くんと三好くんと和田くんだった。

 宣伝企画課の若手メンズトリオだ。
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