上司のヒミツと私のウソ
「話がある。ちょっと付き合え」

 殺気立った低い声が、静かな廊下に響く。

 私は動転して、わけがわからないまま矢神の顔を見上げた。


 上から私を睨み返す目つきの悪さは、不機嫌そのものだった。完全に、“裏”の矢神だった。


 矢神はさっと私の手をとると、呆然としている福原さんには目もくれずに、大股で出口へ向かう。

 矢神に引きずられるようにして会社を出たあとも、矢神は私の右手を強く握ったまま離さず、早足で駅に向かう道をどんどん歩く。


「課長」

 私は不安になって、矢神の背中に声をかけた。

「なんだ」

 不機嫌な低い声が返ってくる。前を向いたまま、矢神は歩くのをやめようとしない。

「あの、いいんですか」

「なにが」

「だって……福原さんに誤解されますよ。それに課長の本性もばれちゃったんじゃ……」
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