上司のヒミツと私のウソ
「よけいなお世話です。私が誰に誘われようと、関係ないじゃないですか、課長には」

「俺は忠告してやってんだよ。誰彼かまわず男に隙を見せるから、こういうことになるんだ」

「……は? 隙なんか見せてません」

「つまり無自覚か。手に負えないな」


 私は言葉をなくして立ちつくした。

 どうして、ここまでいわれなきゃいけないんだろう。


 ものすごく頭に来ているのに、私の右手は、矢神が残した熱を感じて興奮している。

 そんな自分が情けなくて、恥ずかしい。心の中が混乱して、泣きそうになる。

 私は泣かないように歯を食いしばり、矢神から顔をそむけるようにして歩き出した。


「おい」

 矢神の足音が静かに追ってくる。私は足を速める。

「西森」

 ほんの少し冷静さをとりもどした声が、私を呼ぶ。


「課長のいいたいことはわかりました。見苦しいところをお見せしてすみませんでした。以後気をつけます」

 私は振り返らないまま、そっけなくいった。
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