上司のヒミツと私のウソ



 翌朝、私は早めに出社して、屋上で矢神を待った。

 でも、やっぱり矢神は現れなかった。


 始業時刻の五分前に六階にもどると、案の定、矢神は平然と自席についている。

 私が入ってきたことくらい気づいてもよさそうなものなのに、目を合わそうともせず、そしらぬ顔で仕事をしている。


 ここのところ、気温が三十度を超える真夏日が続いている。

 屋上は焦げるような暑さで、日陰に入っていてもうっすら汗をかく。エアコンの効いた社内にいるほうが、よっぽど快適だった。


 でも、矢神はよほどのことがないかぎり、毎朝屋上に現れた。私がいてもいなくても関係なかった。

 その時間は矢神にとって、必要な時間だったはずだ。


 やっぱり、避けられているのだろうか。


 最近の矢神の行動は、不可解なことばかりだ。


 昨夜のことだって、心配する相手が違うんじゃないの、といいたくなる。

 矢神は、私に彩夏さんを重ねているのかもしれない。この前、屋上で寝ぼけて私を彩夏さんと間違えたように……。
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