上司のヒミツと私のウソ
 まだ不機嫌なふりを続けるつもりだろうかと、おそるおそる矢神のようすをうかがう。

 矢神はちらりと私を見ただけで、すぐに手もとの資料に目を移した。私は席を立ち、矢神の近くまで歩みよった。


「どうして話してくれなかったんですか」

 自分でも驚くほど、声にいらだちが現れていた。


「こういうことが進んでいたのなら、もっと早く教えてくれたっていいじゃないですか。そのせいでよけいなことばっかり考えて落ちこんで、ひとりで無駄な心配して、私、バカみたいじゃないですか」


 どうしよう。たまっていた鬱憤が一気に爆発しそう。


「え? 心配……?」

「だから! 課長が旭川支店に転勤になるとか、宣伝企画が統合されるとか! なんで私が……」


 喉の奥で声がからまった。怒りのせいなのか興奮のせいなのかよくわからない。

 私は、矢神のことになると余裕がなくなる。

 そういう自分に気づかされて、自分自身に腹を立てている。それを矢神のせいにしてるだけ。勝手だ。


「俺だって昨日はじめて聞かされたんだよ」

 矢神は私を見て、疲れたような困ったような顔をした。
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