上司のヒミツと私のウソ
正社員にはなりたくない、と安田はいった。
会社という組織に縛りつけられたくないからだという。もう二年近く前のことだ。
安田の心意は、理解できた。
もともと不登校児だった俺の中にも、少なからずそういう気持ちがあるからだ。
今でも企業の一員として働くことがはたして自分の性に合っているのかどうか、疑問におもうときがある。
だから安田の意思を尊重し、今までは無理に正社員になることを勧めなかった。
だが最近の安田を見ていると、なにか少しずつ変わってきているようにおもえて、今なら違う答えを聞けるかもしれないとおもったのだ。
四年間、なにもいわずに俺の下で働いてきた安田に、チャンスを与えてやりたかった。態度には出さずとも、奥底では安田もそれを望んでいるのではないかと。
──先走りすぎたか。
本音をいえば、安田と西森に『RED』の広告を任せてみたかった。あの二人なら、なにか面白いことをしてくれるんじゃないか、と期待したのだが。
エレベーターで六階に降りると、廊下で西森と福原が立ち話をしていた。福原が深刻な顔つきで、「……かわいそうに」という言葉だけが聞こえた。