上司のヒミツと私のウソ
 ゆるんだ視線が煙のようにふわふわ漂い、どこを見ているのかわからない目で「はい。してますよ」と西森が答えた。


 一瞬でようすが変だとわかったものの、どう対応していいかわからず、それ以上言葉が続かない。

 おかしなことに、西森にどこまで近づけばいいのかすらわからなくなっている。


 迷った末に妙な位置で立ち止まってしまった俺を、西森は意志のないぼんやりした表情で眺めていたが、急にわれに返ったように急いで煙草を消した。

 ふたたび顔を上げたとき、さっきとはまるで違う、挑戦するような目つきになっていた。


「あの。変なこと聞きますけど、課長はいま付き合っているひとがいるんですか」


「……なぜ」


 もっとましな返答ができないのか。われながら間抜けすぎて呆れる。


「いえ、いいです。すみません、よけいなこと聞いて」


 こっちはちっともよくないのだが、西森は一方的に話を打ち切ってふたたび煙草を吸い始める。

「十時から『RED』の定例ミーティングですよね」などとどうでもいいことをいい、とりつく島もない。
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