上司のヒミツと私のウソ
 たしかに、『RED』の原材料として名前の挙がっている「べにしずく」は、西森の資料ファイルの中から見つけた。


 一九六九年に品種登録された、今では希少な国産紅茶専用品種だ。


 その品質の高さから国産紅茶としての期待を一身に背負った「べにしずく」だったが、直後の一九七一年、紅茶の自由化で国内の紅茶生産は激減し、壊滅状態となった。


 そのため「べにしずく」は普及することなく、わずか二年で市場から消えた。現在では幻の紅茶品種といわれている。

 栽培している茶農家は現在ごくわずかだが、交渉のすえに「べにしずく」の産地でもある九州の茶農家からようやく色よい返事をもらったのだ。


 本間がはしゃぎたくなる気持ちもわかる。

 だが、この会議が終わったら今度こそ西森にちゃんと礼をいおうと決意を固めていたにもかかわらず、あっけなく本間に先を越された俺はどうなる。


「交渉がうまくいってよかったですね」

「俺の営業トークもたまには役に立つもんや」

「私も聞きたかったなあ」

「西森さん、開発にけえへん?」


 調子に乗ってなにふざけたこと抜かしてんだ、この野郎。
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