上司のヒミツと私のウソ
「この前の話ですが、ほんとうに西森さんを開発に異動させてもかまいませんか?」

 先週は自分から口にしてさんざん俺を責め立てたくせに、本間ははじめて耳にするかのように大げさに身をそらせて驚いた。


「なんやそれ。本気かいな」

「そちらに問題がなければ」

「本人は承諾してんのか」

「これから説得します」


 ふうん、と本間は診察医のごとく鋭い目で俺を眺め回した。右手の指先で、器用にボールペンをくるくる回している。


「めずらしく弱気やな。ひょっとしてほんまに付き合ってんのか」

 答えを選んだために、一瞬だけ間が空いた。

 本間が目を見開く。

「えっ、マジで?」

「正確には過去形です。付き合っていましたが別れました」

「淡々というなあ」


 本間はなぜか淋しそうな、あきれ果てたような、よくわからない複雑な表情を浮かべた。
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