上司のヒミツと私のウソ
 急に立ち上がると、片方の足に体重がかたよってバランスを崩しそうになる。

 あわてて手をついた壁に、『一期一会』のポスターが貼ってあった。前に倉庫を片付けたとき、私が貼ったポスターだ。


 あれから半年しかたっていないのに、もう大昔のような気がする。

 あのときは、ただ純粋に頑張れば認めてもらえるとおもっていた。好きな仕事をすれば悩むこともないとおもっていた。


 私は、なにもわかっていなかった。


「それに今回のことは、あのバカ女が勝手に妄想して作り話をベラベラいいふらしたせいよ。西森のせいじゃない。それくらい課長だってわかってるって」


 そうだろうか。

 矢神の本心は今でもわからない。

 少なくとも今朝は、本気で私を開発に行かせようとしていた。


 松本さんが告白したとき、矢神が断った理由──それは「好きな人がいる」だった。

 矢神は、まだ彩夏さんのことが好きなのだ。


 安田と一緒に倉庫を出た。

 矢神のいる執務室にもどるのが、憂鬱だった。
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