上司のヒミツと私のウソ



 安田と矢神がミーティングルームに入ってから、一時間以上経っていた。

 私は同席を断った。

 矢神と冷静に話し合える自信がなかったし、安田を信用しないわけではないけれど、もうなにをいっても無駄なような気もしていた。


 だから、来週の定例ミーティングで提出する資料をせっせとまとめながらも、心の中では開発に行く覚悟を決めていたのだ。


「西森さん」


 声を聞いたとたんに心臓が跳ね上がり、即座に振り向いてしまった自分を恨んだ。

 いつのまにか執務室にもどってきていた矢神が、やわらかい笑みで見下ろしていた。


「安田さんが『RED』に参加することになりました。『RED』の広告を西森さんと安田さんに任せたいとおもいます。ふたりで協力してがんばってください」


 私は唖然として矢神を見上げた。どこから見ても善人そうな笑顔と、公園のひだまりみたいにおだやかでやさしい声。

 小さな声で「はい」と答えてから、私は作りかけの資料に目をもどした。
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