上司のヒミツと私のウソ
「まだいたのか」

 入ってきた客は矢神だった。


「華ちゃん、オーダー聞いて」

「え?」


 マスターはにんまり笑ったかとおもうと、薄情にもさっさと背中を向けてしまった。

 矢神はカウンター席に座るなり、すぐさま煙草をとり出して口に咥える。私は仕方なく伝票を持って近づいた。


「注文は」

 煙草に火をつけようとしていた矢神が、眉をひそめて私を見る。


「なにやってんだ?」

「注文をきいてるんです。見ればわかるでしょ」

「転職したとは知らなかった」

「今日だけです。注文は」

「接客態度が悪すぎる」

「ご心配なく。ほかのお客さんには、とびきりの笑顔で接していますから」


 矢神は疲労感の漂う溜息をつき、生ビールを注文した。それから煙草に火をつけて、カウンターの上に例のファイルを置いた。


「持ってきてくれたんですか」
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