上司のヒミツと私のウソ
 格子戸を開けて外に出たとたん、昼間の炎天が残した生ぬるい風が頬をなでた。矢神は店を出たところの暗がりで煙草を吸っていた。私は矢神から少し離れた場所に立ち、きっかけを探っていた。


 細い煙が、路地の暗闇を白く縫うように流れてくる。


「ひとつだけ聞いてもいいですか」

 思い切って、口を開いた。

「私は企画部には必要のない人間ですか」



 こちらを向いている矢神の顔は、暗がりで影になっていてよくわからない。煙草の先の赤い火だけが、ぽつんと光って見えた。答えがってこないので、一方的に話を続ける。


「必要ないなら、仕方ないです。一生懸命やっても、どうにもならないことはありますから。でも、そのときははっきりそういってください」


 マスターはああいったけれど、本人に聞いても答えてくれないのだからしょうがない。いつもそうだ。安田にはなんでも話すくせに。


「はっきりいわれたらにショックだけど、でもふざけてあんなことされるよりまし。あなたは楽しいかもしれないけど、私はただ困るだけで、そんな遊びに付き合う余裕はないし」


 話してるうちに、なんだかまた無性に腹が立ってきた。
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