上司のヒミツと私のウソ
「今度あんな真似したら、ほんとうにセクハラで訴えますから」


 そんなことがいいたいんじゃない。

 キスされたことを怒ってるんじゃない。


 私はもっと矢神に近づきたいのに。力になりたいのに。それなのに、いつもごまかされているみたいな気がして、腹が立ってしょうがない。


「別にふざけたつもりはないけど」


 急に暗がりから低い声が返ってきたので驚いた。


「それに、俺だって困ってる」


 矢神の表情を見ようとして目をこらしてみたけれど、いまいちわからない。それとも、またからかわれているのだろうか。


「西森がからむと冷静になれなくて」


 あたたかい夜の闇にほどけた矢神の声は、少しだけ切実な響きを含んでいるように聞こえた。
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