上司のヒミツと私のウソ
 聞こえよがしに会話を続けるふたりに、私はとうとう我慢できなくなって箸を置いた。

「喧嘩なんかしてません! 復活もしてません! 勝手に妄想を膨らませないでください!」


 律子さんはすっとぼけた表情で、「あら残念」とだけいった。その隣でマスターが「矢神さん失恋したばっかだから、チャンスなのに」と小声でつぶやいたのを、私は聞き逃さなかった。律子さんが「こら」とたしなめる。


「彩夏さん、のことですか?」

 仕方ないという表情で、律子さんがしぶしぶうなずく。


「結婚式の日どり、決まったんだって」

「……」

「矢神くんは出席しないっていってたけど」

「……そうですか」


 喜ぶ気持ちにはなれなかった。


 矢神が今でも、彩夏さんに特別な思いを抱いていることは知っている。


 双子のお兄さんの恋人だったひとを何年も思い続けていたのだ。結婚するからといって、そう簡単に気持ちを断ち切れるものではないとおもう。
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