上司のヒミツと私のウソ
 私は大好物のもつ煮こみを、黙って口に運んだ。すると見ていた律子さんが小さく笑う。


「それ、矢神くんも大好きなのよね」

 そうそう、と隣でマスターがうなずいている。


「私は似合うとおもうけどなあ。華ちゃんと矢神くん」

 俺も、とマスターがつぶやく。


「矢神さんとタイマン張れる女のひと、はじめて見たもん。リツ以外で」

「そういえばそうかも」


 私だって、期待しなかったわけじゃない。


──俺だって困ってる。


 昨日の夜、矢神がつぶやいた言葉が今もまだ耳の奥に残っていた。


 あのあと、私は気が動転して、矢神がいった言葉の意味もたしかめずにそそくさと帰ってしまったけれど、あのひとことのおかげで昨夜は眠れなかった。


 あんなことを真剣な声でささやかれたら、誰だって少しは期待してしまうとおもう。

 でも、やっぱりそれは私の思い違いだった。
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