上司のヒミツと私のウソ
 あまりの乱雑さと汚さに、私は入口に立ちつくしたまましばらく動けなかった。


 窓はすべて書棚で塞がれていて、昼間でも暗い。

 閉めきられた部屋の中の空気は最悪だ。


 近づいてみると、棚にもファイルにも足元の段ボール箱にも、白く埃が積もっている。要するに、長い間誰も掃除をしていないのだ。


 腹が立つのと気分が悪いのとで、胸がむかむかしてきた。


 私はいったん執務室にもどり、女性社員にゴミ袋と雑巾とバケツの置き場所を聞いて取りにいった。それらを持ってふたたび倉庫にもどると、足元に散乱しているものから順番に片付け始める。


 こうなるとわかっていたら、おろしたてのスーツなんて着てこなかったのに!


 人事部では制服を着用していたけれど、企画部の女性は私服なのだ。この一週間で、私はあわてて通勤用の服を何着か買い揃えた。この上品なベージュのスーツもその中の一着だ。

 朝礼のとき、女性社員がそれとなく私を観察しているのを感じた。その中には安田麻琴もいた。
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