上司のヒミツと私のウソ
「うれしい。久しぶりに聞いたな、その言葉」

 笑いながら、律子さんはすぐに付けたす。


「明日の朝、電話して。ようすを見にいくから」

 じゃあねという言葉を残して、通話は途切れた。


 電話を切ると同時に深い溜息がこぼれる。

 すみませんが、と運転手に声をかけ、新たな行き先を告げた。

 まもなく、タクシーは見慣れた街を走り始めた。





 マンションの玄関前にタクシーを止め、寝ているのか起きているのかわからない西森を背におぶって部屋まで運んだ。


 すっかり意識を失い熱をもった西森の体は、小さく見えてもそれなりに重い。

 部屋の扉の前で、どうやって鍵を出そうかと思案していると、耳もとで「ここ、どこ」とくぐもった声がした。
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