上司のヒミツと私のウソ
 体温計をたしかめにいきたかったが、なんとなく躊躇して、それから一時間ばかり寝室には近よれなかった。


 西森は眠っていた。


 枕もとに体温計が放り出されていて、確認すると三十七度六分だった。

 おもったほど高くない。額にふれるとまだ熱く、汗ばんでいるが、これより熱が上がらないようなら普通感冒だろう。


 西森を起こしてなにか食べさせようかとおもったが、いまこの家にある食べ物といえばインスタントラーメンくらいだった。

 無理強いしてでも『あすなろ』にあずけてくるべきだったのだ。

 情けないと同時に自分に腹が立ったが、しょうがない。このまま西森を寝かせることにした。明日の朝、律子さんに連絡して来てもらおう。


 額にふれた手で、西森の髪をなでる。


 むかし、まだ俺が小さかった頃、ひどい風邪をひいて数日寝こんだことがあった。

 ハルのとり乱しようは寝ている子供の俺から見ても憐れなほどで、ただの風邪だから死なねえよ、とハルを安心させるために強がってみせたほどだ。
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