上司のヒミツと私のウソ



 西森は翌日出社した。ときどき咳をしているほかは、いつもと変わらないようすだった。

 朝出社するなり俺のところへ来て、「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」としかつめらしく謝り、それきり話しかけてこない。


「西森さん」


 昼休みに入る直前、とうとう我慢できず西森に声をかけてミーティングルームに呼び出した。

 狭い部屋でふたりきりになっても西森はたじろぐそぶりも見せず、よそよそしい顔で立っている。


「留守電、聞いたか」


 唐突に切り出した。いざあらたまると、なにから話せばいいかわからない。

 だが、予想に反して、西森はにっこり笑って「はい」と答えた。


「連作広告のストーリーは好評だったと、さっき安田さんから聞きました。『RED』を商品名にすることにも、好意的な意見が多かったみたいでホッとしました。ありがとうございました」


 なんだろうこれは、とおもった。
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